井上陽水は、今まで何度かマイ・ブームが来てハマッた時期があったんだけど、オリジナル・アルバムは、あと4~5枚未聴のまま。レンタルにもあまり置いてないし、聴こうと思ったら、買わないとならない。代表曲や代表アルバムはだいたいおさえたので、残るは地味目のアルバム。なので、なんとなく、まあ、後でいいかなあ、って。
10月に初めて陽水のライヴに行く事になって、今回のツアーで披露されてる曲目をチェックしてたら、馴染みのない曲が1つ。
「ミス コンテスト」。
これは、たぶん聴いた事ない。
調べてみたら、『white』に収録との事。
YouTubeで試聴してみたら、割といい感じの曲。
予習も兼ねて、このアルバムを買ってみようか。
未聴アルバムに手を出してみる良いきっかけとなった。
78年リリースの5thアルバム。
前年の大麻事件で、執行猶予期間中のリリース。この早さ、これは今では考えられないよね。今だったら、執行猶予期間中は活動休止を余儀なくされるはず。でも、この頃は、作品を作って発表する事が許されたわけだから、時代を感じる。
で、作品の内容も、獄中で作られたという噂のある曲があったりとか、事件の影響が見てとれるものとなっているという。
1曲目「青い闇の警告」。
これはまずタイトルがカッコいいね。で、その期待通りに曲そのものもカッコいい。ブルース・ロック的な感じ。「♪俺は破片を集めて」の後のリズムの刻み方が痺れる。リード・ギターも素晴らしいフレーズを連発。と思ったら、ギターは高中正義だって。それから元ムーンライダーズの椎名和夫。「♪今の住所はここで 固い扉が守り」という歌詞から、獄中でヒントを得た曲だと言われている。
2曲目「ミス コンテスト」。
前曲から一転して、メロウなメロディ。しっとりとして、やるせない感じ。雰囲気はとっても良くて好きなんだけど、欠点というか、惜しむらくは、サビが弱いというか、いまいちどこがサビなのかわからない感じがするところ。だから、シングル・カットされたけど、ヒットはしなかったのが頷ける。でも、ファンの間ではちゃんと人気のある曲らしいけど。
3曲目「white」。
これもメロウな陽水。スティーリー・ダン風というか、AOR的なアレンジ。ギターが転がる様なAメロがすごく好き。
4曲目「愛の装備」。
この曲は、リアレンジした『ガイドのいない夜』のヴァージョンを先に聴いていて、オリジナル・ヴァージョンをちゃんと聴いたのは今回初めてかもしれない。またもやメロウな陽水かと思いきや、途中からテンポ・アップして、山下達郎風のアッパー・チューンになる所が面白い。でも、どうせだったら、もっと思い切って派手なアレンジにしてシングル・カットしてたら、もしかしたら売れてたかもしれないなあと思う。『ガイドのいない夜』は夜を感じさせるヴァージョンだったけど、こちらは昼。夏の日の昼に車を飛ばしながら聴くとピッタリ合いそう。
5曲目「迷走する町」。
これは初期の陽水を感じさせるメロディ。つまりは、メロディだけを聴くとフォークっぽいんだけど、アレンジがそれを感じさせない。間奏の音がすごく好き。すごく懐かしくて愛おしい思い出を感じさせるサウンド。
6曲目「ダンスの流行」。
このアルバム中、一番派手な曲。陽気なダンスの歌で、あまり好きになれないかと思いきや、サビで雰囲気が変わる展開とメロディがすごくいい。
7曲目「甘い言葉ダーリン」。
これもタイトル通り、甘い。かつ、いささか爽やかかな。さりげない良さがある小品という感じ。
8曲目「暑い夜」。
これも6曲目に劣らずまた派手だな。「ダンスの流行」には「♪ジルバ、マンボ、タンゴ、ルンバ、ボサノバ」という歌詞があったけど、そこに含まれていなかった「サンバ」がこの曲だな、という感じ。暑い夜にどうする事もできなくて、のたうち回っている感じ。この曲だけ、作詞が陽水じゃない。
9曲目「灰色の指先」。
これも初期の陽水を思い出させるな。「人生が二度あれば」とか「小春おばさん」とかのね。でも、これもフォーク臭くならない様に気を遣ったアレンジ。歌詞は、職人の哀しみ、虚しさを歌った歌。
10曲目「Bye Bye Little Love」。
ラストも、とびっきりメロウなバラード。つぶやくようなAメロから、シャウトするBメロでだんだんと盛り上げて、ファルセットで昇天するサビ。伸びやかな陽水のヴォーカルが堪能できるし、曲として完成度が高く、かゆい所に手が届いていて、満足させてくれる展開。サビからはロッカ・バラードと言ってもいいのかな。後半に絡んでくるサックス・ソロがいい味を出している。
事件の影響から、陽水のイメージが悪くなっていったのか、セールス的には下降していった時期。
だけど、これは僕にとっては傑作。
爆発的セールスを記録した『氷の世界』よりもずっと好み。
フォークのイメージから抜け出し、AOR的な、メロウな世界が展開される、素晴らしいアルバム。
大ヒットした曲がある訳ではないから、いささか地味な感じもあるけれど、アレンジを手掛けた星勝も陽水と共に成長を遂げ、素晴らしい仕事をしている。「時代の音」を掴んでる感がある。
こんなに良いものを作ったとなると、この次のアルバム『スニーカーダンサー』と共に、この頃が僕にとっては、陽水の絶頂期と言えるだろう。
とにかく気に入った。何度聴いても飽きない。
まだこんな傑作があったとは。
地味なアルバムなんだろうと思って油断してた。
やっぱり陽水はあなどれない。
これは近いうち、残りの未聴アルバムもすべて聴いてみなければなるまい。
VIDEO
↑ 「青い闇の警告」。
これはまずタイトルがカッコいいね。で、その期待通りに曲そのものもカッコいい。ブルース・ロック的な感じ。「♪俺は破片を集めて」の後のリズムの刻み方が痺れる。リード・ギターも素晴らしいフレーズを連発。「♪今の住所はここで 固い扉が守り」という歌詞から、獄中でヒントを得た曲だと言われている。