[CAFÉ BLEU STYLE ARCHIVES] 2002年頃に書いた記事です
冒頭でも触れたように、それまでの僕のビーチ・ボーイズ像が見事に崩れた一枚。まあ、それまで一部分しか見てなかった...というより、なんにも知らなかったんだな、って事だけどね。
明るい曲はあるけれど、「夏だ!海だ!恋だ!」と、突き抜けて浮かれた曲がなかった事が(当時の僕には)良かった。
ビートルズの『ラバー・ソウル』を聴いたブライアンがこの『ペット・サウンズ』を作り、それを聴いたビートルズが『サージェント・ペパーズ』を作った...というエピソードはロック・ファンにはあまりにも有名。
そしてさらに負けじと『スマイル』を作ろうとするも挫折したブライアンは、ポールがブライアン宅訪問した際、納屋に閉じこもって怯えて泣いていた...なんていうエピソードまで聞くと、「ブライアン、こんなすげえの作ったんだから自信持てよ~。そんな落ち込む必要ないじゃないかよ...」と、非常に切なくなるのだった。
いや、ブライアンだって、この『ペット・サウンズ』を作り上げた当初は自信はあったに違いない。頭の中に流れるサウンド・アイデアを表現するべく渾身の力を振り絞り、スタジオ・ミュージシャン達と作り上げたバック・トラック。しかし、それらをツアーから戻ってきたメンバーに聴かせたところ、かえってきたのは「なんだこりゃ?」の返事だったという。
それでも妥協しなかったブライアンはメンバーを説得してなんとかこの作品を仕上げたものの、結局メンバーのみならず、レコード会社、ファンからもとまどいの声ばかり。
不安に感じたレコード会社はシングル「キャロライン・ノー」をブライアンのソロ名義にして、ビーチ・ボーイズとしてはブライアンの意向ではなかった「スループ・ジョン・B」を出す。『ペット・サウンズ』リリース後も、売上不振を危惧して急遽ベスト盤を制作し、そちらが大ヒット。そのベスト盤につぶされるような形で『ペット・サウンズ』の売上は尚更伸びず...。
自信満々で完成させたものの、周囲のこの仕打ち、さらにファンもついて来ずでは、どれほど落胆しただろうか。結果、ブライアンはドラッグ中毒なども重なって、どんどん深い闇の中に入り込んでいってしまった。
メンバーも、この音楽の素晴らしさを認めてない訳じゃなかったと思うよ。でも、ブライアンが求めていた理想、進んでいった方向性は、メンバーの理想とするビーチ・ボーイズ像とはかけ離れていたって事なんだろうね。
しかも、自分達が留守の間にブライアンが一人で作り上げてしまったものだから。それが素晴らしいものだと感じれば尚更、嫉妬心や疎外感みたいなものも生まれただろうし。とにかく、いろんなものが絡み合って、ブライアンの才能は正当に評価されるには至らなかった訳だ。
しかしもし、この時『ペット・サウンズ』が正当に評価されていたら。そしてブライアンがどんどん自信を付けて、この後大成功を収めていたとしたら。
僕はここまでブライアン(およびビーチ・ボーイズ)を好きになる事ができただろうか。深い思い入れを持てただろうか。それはたぶん、NOのような気がする...。
さて、肝心の『ペット・サウンズ』の中身。
ちゃんと意識して聴くのは初めてだったビーチ・ボーイズ。はたしてどんな音なのか。どんなメロディなのか。期待と不安が入り混じりながら、聴こえてきたのは「素敵じゃないか」のイントロ。胸をくすぐられるようなフレーズに、ドラムがダン!!「♪ ウッ~~ド...」でもうノックアウト。
全体的には明るく希望に満ちた曲ながらも、サビではちゃんと切ないハーモニーが加わる。この曲を聴いただけで、「ああ、僕が期待してたのはこんなんだった。買ってよかった」と思えたのだった。
期待してたと言えば、僕がどんな世界を期待してたかというと...それは『ペット・サウンズ』のCDオビに書いてあった言葉【悲しい程美しい】、これだった。この言葉に惹かれたのだった。こういう世界、好きかも...と。
そんな期待を胸にこのアルバムを購入したのだった。そしてその、【悲しい程美しい】世界を一番表現していたのが、ラストの「キャロライン・ノー」だった。
なんて悲しいんだろう...こんなに切ないのに、何故か笑顔になりたくなる。不思議な感覚。期待以上の曲だった。
さて。『ペット・サウンズ』に関して、「初めて聴いた時はわからなかった」という声をよく耳にする。中には未だにわからないと言う人もいる。
じゃあ僕はどうだったかと言うと、初めて聴いた時にすぐに「いいな」と思えたので、「僕は『ペット・サウンズ』の良さが最初からわかったぞ」なんて密かに自負したりしてたのだが、よくよく思い出してみると、買った当初、聴いてたのは上記の2曲だけ。この2曲のみをリピート再生してた気がする。他の曲もなかなかいい雰囲気かもと思ってはいたが、何度も聴こうとはしてなかった、という訳だ。
という事はつまり、やっぱり僕も『ペット・サウンズ』という作品全体の魅力をわかっていなかったのではないか...最近そう思うようになってきた。
そして2曲中心に聴きつつも、たまに通して全曲聴いてみる。すると、今度は別の曲が心にひっかかる。気になっていく。
まず「駄目な僕」に心奪われた。
なかなか自信を持つことができないブライアンの心情を見事に表した詞。胸が痛くなってくる。この重さ。たまらない。
その次は「ヒア・トゥデイ」。
(特に)イントロのベース・ライン。気持ち悪いのが気持ち良い(笑)。こいつはクセになる。スリリングな間奏もハイライト。
それから今度は「神のみぞ知る」。
優しいイントロから、優しいカールの歌声。間奏のパパパンコーラス。暖かい太陽の光を感じる曲。
ポール・マッカートニーが「最高の曲」と絶賛したというのも、聴けば聴くほど身に染みてわかった。
最後のコーラスの波がすごい「僕を信じて」。
バイシクル・フォンの音も印象的で面白い。
マイクが力強く歌ってる分、他の曲に比べたら元気な曲に聴こえる「ザッツ・ノット・ミー」。
後半、ヴォーカルがブライアンに代わってファルセットが出てくると、とたんに切なくなって、「ああ、これも寂しい(内容の)歌だったんだなあ」というのがわかる。
「ドント・トーク」は、コーラスを付けずにブライアンが独りで歌っているからこそ、【何も言わないで静かにしてて】という切なる願いにリアリティが増す。
ここでは数少ない、希望の見える曲「待ったこの日」では、少しホッとして元気になれる気がする。
そして「少しの間」「ペット・サウンズ」というインスト。
インスト苦手の僕が、ビーチ・ボーイズのインストだったら喜んで聴いてるというのだから、自分でも驚きだ。ビーチ・ボーイズの曲には、やはり「何か」がある。
...と、こんな具合に、聴けば聴くほど好きな曲が増え、今では全曲好きなのだ。捨て曲なし。そして飽きない。
こういうアルバムは珍しい。だから名盤なのだ。
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