[CAFÉ BLEU STYLE ARCHIVES] 2003年頃に書いた記事です
最高傑作を作り上げたグループは次にどうなるか。スパイダースもその例にもれず、崩壊への道を辿る事となる。
前作でやるべき事をやりとげた彼らは、次の目標が定まらないまま次のアルバムの制作に入る。ある意味惰性で作られたと思えるこのアルバム、さすがに彼ら、ある一定のレベルを持った楽曲を作ってはいるが、ひとつのアルバムとしてみた場合、各メンバーの方向性の違いが浮き彫りになり、かなりとっ散らかっているように思える。
しかし、そんな中だからこそ見えるものもあるから面白い。
『明治百年~』が、『サージェント・ペパーズ~』を模したトータル・アルバムだったとすれば、その後に出たこの『‘69』は、『ホワイト・アルバム』か。いや、『リボルバー』にも似てるかな。
後にソロ歌手としても活躍するマチャアキと順は、歌謡曲路線の「涙の日曜日」「風はいい奴」を。
二人のその後のソロ作の雰囲気を予感させる仕上がりだ。
「涙の日曜日」は、たぶんこれを聴いて、後に筒美京平は「さらば恋人」を作ったんだろうなあと思わせる歌謡曲。
また、マチャアキは、「恋のドクター」「オツム・コン!コン!」に続くコミック・ソング・シリーズ第三弾として、シャンソンとミュージカルのスタンダード・ナンバーに日本語詞を付けた「君恋し今宵」で熱「演」。
この曲は、途中ビートルズの「グッド・モーニング、グッド・モーニング」を髣髴とさせる喧騒や「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」の目覚まし音などのSEにも凝っている。
順は珍しく作曲をした(初めて?)「花とギターと女の子」を提供、アコースティック・ギターの調べが印象的な小品に仕上げていて、悪くない。
イノヤンのリード・ヴォーカル曲としては初めてシングル発売となった「ガラスの聖女」。
ここではシングル・ヴァージョンと違い、琴の演奏がフィーチャーされている。
カヴァーものでは、イノヤンがブルージーな「オー・プリティー・ウーマン」を渋く、ビートルズの「エニイタイム・アット・オール」を思いっきり遅く(笑)演奏しているが、ベスト・トラックはマチャアキが熱「唱」するドアーズの「タッチ・ミー」だろう。僕はこの曲をスパイダース・ヴァージョンの方を先に聴いたからか?オリジナルよりもカッコいい、と思う。
そしてやはり注目すべきはムッシュ。
前作に続き、ここでも一人多重録音で2曲。
「ソー・ロング・サチオ」。
事故死したレーサーで、親友だった福沢幸雄に捧げた名曲。追悼曲に対してこんな言い方をするのはどうかとも思うが、非常にお洒落でクール。
当時のライナーには、【モダンなシャンソン調のソフト・ロック】と表現されているが、個人的にはビーチ・ボーイズの『フレンズ』あたりにも通じるものがあると思う。
ジャズというかボサノバというか、ソフト・ロックの好きな人にはきっと気に入ってもらえるだろう名曲だ。とにかく必聴。
もう一曲「ムッシュ&タロー」は、生まれたばかりの長男をあやす姿を歌にしたもの。
たたみかける歌い方の赤ん坊側のパートから、やんわり子守唄になる父親側のパートの対比が面白い。
バックでは本当に長男タローくんの泣き声が聴こえる。
この年、ムッシュは多重録音した曲をまとめたソロ・アルバムを出している。
一人多重録音のソロ・アルバムは、ポール・マッカートニーやトッド・ラングレンよりもムッシュの方が早いんだね。
ラストは、9分にも及ぶブルース・ジャム・セッションの「スタジオAM9:00」。
ダラダラとジャムが続く中、マチャアキと順が乱入。「おはよう。みんな早いねえ」「ゆうべからやってんだよ...本番なんだよ!」「どうもすいません...」の会話が入る。もちろん演出だろうが、やりたくはねえけど仕事だから仕方ないんだという当時の状況・心境が垣間見えるようでもある。
そして、終了後のムッシュの「のらねえ」にすべてが集約されている。
前衛的だ。
オリジナルはここまでだが、CDではボーナス・トラックとしてアルバム未収録のシングルA・B面5曲が追加されている。
特筆すべきなのは「コケコッコー」。
これもまた「グッド・モーニング、グッド・モーニング」からインスパイアされたのだろうが、素晴らしい出来。
サイケでブルージーなロックに、マチャアキ・順コンビのハーモニー、ムッシュ・イノヤンコンビのハーモニーが交互に展開する。間奏のかけあいもスリリング。
他には、異色作「赤いリンゴ」、
ムッシュのコーラス(&奇声)が秀逸な「夜明けの二人」、
マチャアキをフィーチャーして(堺正章/ザ・スパイダース名義での発売)感動的に仕上げている「ふたりは今」「友を呼ぶ歌」。
英国訪問時の新聞記事をデザインしたジャケットもグッド。
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[CAFÉ BLEU STYLE ARCHIVES] 2003年頃に書いた記事です
スパイダースの最高傑作と言ったらこれでしょう。
常に時代を先取りし、新しい音楽を作り続けるパイオニア精神は、明治開国の志士たちに通じるものがあるとし、本盤が発表された1968年は明治で言ったら100年にあたるため、このようなタイトルになった。
当然全曲オリジナルで、様々なスタイルやアイデアを詰め込み、作りこんだというのがわかる名盤。
ジャケットもカッコいい。浅草にあった凌雲閣をあしらった明治時代のスゴロクが元。裏ジャケもあわせて、各メンバーの顔が小さく隠れている。CDでもギリギリわかるが、こういうのはやはりLPで持っていたい。
『サージェント・ペパーズ』を意識したかのように、オーケストラのチューニング音で始まるA面は、各メンバーがそれぞれリード・ヴォーカルを担当(田辺以外は作詞も各自が担当)、曲間もスクラッチ・ノイズやおもちゃのピアノの演奏などでつなぎ、コンセプト・アルバムの趣きがある。
そのソロ曲はイノヤン、克夫ちゃん、マチャアキ、順、加藤さん、田辺さん、ムッシュの順番。
ホーン・セクションが印象的なR&B調の「あなたといる時、そんな時」、
ヒンドゥー教をテーマにした「神の掟」、
タイトルからしてマチャアキだとわかるコミカルなデキシー「オツム・コン!コン!」、
順らしい甘さの「二人のダンス」、
加藤さんの微笑ましい「白い波の少女」、
またまた登場田辺さんのテーマ・ソング「ロンリー・マン」と、それぞれが特色(当時の嗜好)を表している。
しかしなんと言っても飛びぬけているのがムッシュの「ミスター・タックス」。
日本では初の一人多重録音(6チャンネル)作品。
タイトルでもわかる通り「タックス・マン」の影響下にあるものだが、メトロノームやヴォーカル処理、間奏のシタール・ソロがカッコいい。
コンセプトに沿ったA面はここまで。
この曲の後の意味不明の会話(?)は『サージェント・ペパーズ』のInner Grooveを模したものか。
B面はシングル曲中心に構成されたものだが、ここでもムッシュの活躍は続く。
6曲中5曲がムッシュ作で、そのどれもが傑作と呼べるものばかり。この時いかにムッシュのセンスが研ぎ澄まされていたかがわかる。
イントロのシタールが印象的なシングル曲「黒ゆりの詩」。
疾走するリズム隊に明るい詞が乗った「赤いドレスの女の子」も人気曲。
「赤いドレスの女の子」はビーチ・ボーイズの「すてきなブーガルー」にソックリ。
ムッシュが歌う「エンド・オブ・ラブ」も黒っぽい魅力が光る佳曲。
間奏とエンディングで音が左右に振れるのがカッコいい。
そして、僕がスパイダースにのめりこむきっかけとなったのが「真珠の涙」。
今でもスパイダースの曲の中で一番好きと言っていいだろう。
ハープとベースにストリングスが絡む幻想的なイントロに始まり、マチャアキ・順のユニゾン~マチャアキ・ソロ~マチャアキ・順・ムッシュのハーモニー~マチャアキ・ソロ~順・ソロ~順・マチャアキ・ムッシュのハーモニーという凝ったヴォーカルの流れ。ムッシュのチュチュ・コーラスも秀逸。
ロマンチックな歌詞と切ないメロディを見事に活かしたアレンジを手がけているのはなんと筒美京平。
もう完璧。ロックと歌謡曲が最高の形で融合した瞬間だと思う。
「ロックンロール・ボーイ」はストレートに楽しい。
間奏でのイノヤンのギター・ソロ、克夫ちゃんのオルガン・ソロ。各メンバーが楽しく演奏する姿が目に浮かぶ。これまた大好きな曲。
ラストの「ブルース・フォー・ウェス」はなんとジャズ。
ウェス・モンゴメリーに捧げたインストで、非常にクール。ムッシュのスキャットもカッコいい。
こういうのをサラッとやれてしまう所が、他のGSとは一線を画すスパイダースの間口の広さの証明だろう。
現在は、5thとの2in 1CDで発売中。
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[CAFÉ BLEU STYLE ARCHIVES] 2003年頃に書いた記事です
5枚目のアルバムは、またまたカヴァーを中心にした作品。
オリジナルは3曲しかなく、それも「あの時君は若かった」「もう一度もう一度」「いつまでもどこまでも」といったシングルでおなじみの青春歌謡。こういう路線もあまり僕の好みでないためか、僕としてはあまり魅力を感じないアルバム。
カヴァーでは、「演説みたい」というのは言い得て妙な(笑)「あなただけを」、
マチャアキが涙を流しながら歌ったという「サニー」、
ビートルズのというよりもオーティス・レディング・アレンジの「デイ・トリッパー」、
イノヤンの渋い声がハマッた「イン・ザ・ミッドナイト・アワー」あたりが聴き所か。
現在は、『明治百年、すぱいだーす七年』との2in 1CDで発売中。
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[CAFÉ BLEU STYLE ARCHIVES] 2003年頃に書いた記事です
主演映画『ザ・スパイダースの大進撃』のサウンド・トラック。EP2枚組での発売。ビートルズの『マジカル・ミステリー・ツアー』と同手法って事だね。
モノラル録音のため、音が悪いのが難点だが、曲間に映画内のセリフを挿入、いかにも映画のサントラという楽しい雰囲気。映画を観てない人でも、それらの場面が頭に浮かぶようである。
モノラル・サウンドに加え、演奏はライヴ一発録りといった感じなので、作りこんだオリジナルアルバムとはまた違った魅力がある。
そんな魅力の筆頭が「メラ・メラ」だ。
ガレージ・ロックの元祖と言ってもいいだろう、このノリ、このサウンド。最高の演奏だね。いかしてる(笑)よ。
ベース・ラインは「タックス・マン」の影響か。
「夜明けの太陽」は映画の主題歌らしい明るいナンバーで、イントロのギターが印象的。
このイントロは、後に「あの時君は若かった」で再起用されて有名。
グループのテーマ・ソングとも言うべき「ヒア・カム・スパイダース」、なかなかカッコいい仕上がりだが、いまいち浸透度は低く、自他共に認めるテーマ・ソングとはならなかった(笑)。
ビーチ・ボーイズ風コーラスが耳を引く「もう一度もう一度」。
のちにシングルB面となったが、ここはそれと違うヴァージョンで、演奏時間も1分程度と短い。
「紫色の船」は、サビがいかにもGSメロディといった感じ。
3rdに収録の「なんとなくなんとなく」は、ここでは映画にあわせて鹿児島弁で歌われている。
現在は、4thとの2in 1CDで発売中。
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[CAFÉ BLEU STYLE ARCHIVES] 2003年頃に書いた記事です
ミリタリー・ルックのジャケット。スパイダース絶頂期。そしてGSブーム到来。
いろんな面で充実していた時期なだけに、実験的なサウンド等グループとしての熱意が伝わってくる一枚だ。
前年の「夕陽が泣いている」のヒットを受けて、浜口庫之助第2弾シングル「風が泣いている」。
いきなり強風といった感じのイントロを経て「♪ ゴゴゴー~」がカッコいい。個人的には「夕陽~」よりも好き。
主演映画『ゴーゴー向こう見ず作戦』の主題歌なのが「あの虹をつかもう」。
映画の脚本を手がけた関係で倉本聰が作詞を担当。
イントロのホーンセクションが胸をくすぐる。サビでは泣きのメロディが入り、後半はテンポを変えたりして展開も面白い。
いかにも当時の映画音楽といった雰囲気で、大好きな曲。
「恋のドクター」はとにかく面白い。
だって「♪ 注射ピュッピュ」だもの(笑)。それがまたマチャアキのキャラクターにハマッてるからね。
「イヴ」は、笙や琵琶などの雅楽を取り入れた実験的サウンド。
ビートルズのインド音楽に対抗してのものだろう。とにかく反応(そしてオリジナルへ消化させようとする姿勢)が早い。
B面にはカヴァーが3曲。「ハンキー・パンキー」「バラ・バラ」「愛しておくれ」。
「愛しておくれ」という邦題だからわからなかったけれど、これは「GIMME SOME LOVIN’」。
うまく歌えないドラマーとしてリンゴを目指したのか(?)「ロンリー・マン」は、ドラマーの田辺さんがヴォーカル。
何故かこの後何度もレコーディング・収録され、田辺さんのテーマ曲として大プッシュ(笑)。ここでのヴァージョンはこのアルバムらしく雅楽風味。
後にシングルB面となって、いまやスパイダースの代表曲と言ってもいい「バン!バン!」。
シングルの方は「バン!バン!バン!」だが、オリジナルは「バン!バン!」だった。ヴァージョンも違う(リミックスなのか?)。
ラストを飾るのは「夕陽が泣いている」の英語版「サッド・センセット」。
演奏も違い、英語で歌うマチャアキがカッコいい。
現在は、『ザ・スパイダースの大進撃』との2in 1CDで発売中。
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